マンションの管理費、修繕積立金、使用料などの徴収金(以下、「管理費等」と表記します)を滞納している区分所有者は、役員に就任できるのか?
就任したとして、役職は制限すべきか?
ということについての話し合いがありましたので紹介します。
なお、種々の理由から、大筋に影響のない範囲で意図的に詳細を変更しています。
前提の情報
当該マンションは、役員の輪番制を採用しているマンションです。
15年くらいに1度、順番が回ってきます。
とある滞納者が役員に就任する順番となったときに、本件が議題になりました。
マンションの滞納管理費の滞納者が役員に就任することについての、一般論としてのあれこれ
最初に考え方を整理しておきます。
管理組合役員の選出については、管理規約(ないしはその細則)でルールを決めるべきことですから、こういった場合はまず管理規約を見ることになります。
管理規約はマンションごとに自由に設定できるものではありますが、世の中のマンションは国土交通省のつくった「標準管理規約」に沿っているのが一般的です。
本件マンションもそうでした。
標準管理規約では触れられていない
さて、標準管理規約ではどのように取り扱うのか、というと、暴力団だとかそれ系には触れられていますが、こういった細かいことには一切触れられていません。
標準管理規約第36条の2より抜粋
(役員の欠格条項)
次の各号のいずれかに該当する者は、役員となることができない。
一 成年被後見人若しくは被保佐人又は破産者で復権を得ないもの
二 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者
三 暴力団員等(暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者をいう。)
であれば、ルール上、滞納者が役員に就任することは可能です。
なので、「そのとき考える」というのが世の中のマンションでの対応かと思います。
また、管理会社からも「独自に役員の欠格条件などのルールを設定したほうがいい」みたいな話をあえてすることはないでしょう。
他にもっと大事な話がたくさんありますし、そもそもお金にならないことだから管理会社にはあえて提案するメリットがありません
民法上の取り扱い
管理規約では細かいルールが設定されていない、という前提条件で、次に考えることですが。
管理組合と役員は、民法上の「委任の関係」にある、とされています。
つまり、
管理組合「お願いしますね」
役員「わかりました」
という合意のもとに成り立つ関係で、「互いの信頼関係を前提としている」とされています。
言い換えれば、信頼関係がなければ成り立たないし、信頼関係がなくなれば中断できる、ということです。
民法651条より抜粋
- 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
- 当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない
参考:民法651条
なので、「本来納入すべきお金を払わない人が信頼できるのか?」ということが、本件事例のポイントかと思います。
次に、実際の協議内容をかいつまんで紹介します
組合の協議の内容
本項では、発言→回答→回答→回答….という形式でのラリーを記載します。段落で発言者が変わりますのでそのつもりで読んでいただければ。
滞納者は信頼できるか問題
(問題提起)
役員は、組合組織の中枢。管理費等の納入は組合員の義務であるとともに、その収入はマンションを運営していくうえで非常に重要。
その「重要な義務を果たせない」人間を、運営上重要なポストとなる役員に据える訳にはいかないだろう。
(上記の反論)
運営は事実上、管理会社が行っていることが多い。組合役員はお飾りと言っていい期も少なくない。
また、望んで役員となる者も少ない。
管理会社や他の役員がストッパーとなるので、滞納者が役員となっても問題となる可能性はごく低いのでは?
また、人物面に問題があるか否かは滞納の有無だけで図れるものではないのでは?
(上記の反論)
それを管理組合が自ら認めてしまうのもどうかとは思うが・・・。
しかし,確率論でもある。
万が一のリスクを許容できるのか?
本件に関する管理会社の意見
管理会社は組合運営のサポートを契約に含み、プロとしての理をもって業務にあたる。妥当ではない組合の判断には異を唱えることもあるし、諌めることもある。
しかし、管理会社は業者であり、組合に雇われた存在。
課題を内包した決議であったとしても、組合(に選出された役員によって構成される理事会)がそれを望むのであれば、法令や規約、総会決議に反しない限り従うのが筋。
また、その判断に責任を負う立場でもない。
というのも、契約上の免責事項でもあるし、担当者である私も含めて会社は責任を回避する方向で行動する。
どうにかなった場合は契約を終了すればそれで終わる管理会社と、住居の所有者である区分所有者との間には想定されるダメージに大きな乖離があるので(人によっては人生レベルの致命傷となりうる)同様に扱ってよいものでもない。
さらに、人物面で信頼できるか否かを判ずる基準は極めて主観的なものであり、その機能は管理会社にはない。
滞納者を十把一絡げに問題があるとすると、マンションのコミュニティに影がさすので望ましくはないが、注視すべきポイントであることは間違いない。普段の近所付き合いに与える影響等も勘案しながら、慎重な判断が必要。
ついでに言えば、「輪番で当たったから自動的に役員に就任すべき」という意見には賛同できない。滞納の有無にかかわらず、適切な審議のうえで役員を選出されたし。
滞納者に就任してもらうとして、どの役職なら良いか問題
(問題提起)
理事長は、管理組合の法令上の管理者であり、種々の組合の意思決定について権利と義務を負う立場。
また、組合通帳の名義人ともなるので、少なくとも理事長に就任させる訳にはいかない。
というわけで、比較的重要度の低い他の役職であればよいのでは。
(上記の反論)
監事は、理事長を含めた理事会組織を監督する立場。
理事長に適さない人物を監事に任命するわけにはいかないだろう。
(上記の反論)
実際は、監事としての役割の実務的な部分は管理会社が担っており、事実、過去に監事が組合活動の問題点を指摘した事例はない。
議決権をもった理事より良いのでは?
また、監事の役割は、(手続きが煩雑になる可能性はあるが)他の役員ないしは区分所有者が代行することは可能と思われる。
(上記の反論)
それだと前提から監事の否定となるので論外。
しかし、議決権を与えないオブザーバーとして参加していただく、という意見はあり。
(上記の反論)
オブザーバーとなった一人分は、役員を補充するのか?あるいは、役員を1名減らして運営するのか?
役員の回ってくる順番は遅いほうが良いというのがほとんどの住民に共通する認識で、であれば滞納者が抜けると迷惑をかける結果になる。一方で、役員を一人減らしても運営が可能なのであれば、普段から1名減らせばいいのでは・・・。
管理会社の意見
規約上、理事(標準管理規約上、監事以外の役員のこと)は互選で決めるようになっているわけなので、理事長以外の役職に任命された方が、理事会の決議のなかで理事長になることも可能。
総会での制御はまったく効かないので、理事になるということはイコールで理事長になってもよいということと認識すべき。
監事は言わずもがな。
役員はみんなやりたくない問題
(問題提起)
管理費等を収めない人間は、それだけ組合に負担をかけている。
未納者の対応にもコストが掛かっている。であれば、お金を払わないのであれば、せめて役員となり、組合活動に貢献していただきたい。
また、未納対応の手間も理解していただくということは無駄ではないだろう。
(上記の反論)
その結果、未納者にとって有利な決議がされるリスクは許容できない。
(上記の反論)
理事は4名(監事1名を除く)である。
4名中1名が非協力的な意見をもっていたとしても、適切な業務遂行は可能。
(上記の反論)
規約上、理事会は、「理事の半数以上の出席」で開催できる。(つまり2名以上)
さらに、その議事は「出席理事の過半数で決する」ので、ルール上は1名で決議できることになる。
過去、このような乱暴がされたことはないが、ルールのスキではある。
4名中1名とはいえ、重要であることに違いはない。
【参考】
標準管理規約第53条
理事会の会議は、理事の半数以上が出席しなければ開くことができず、その議事は出席理事の過半数で決する。
なぜ原始規約に役員欠格事由が含まれていないのか
話し合いの中で、「最初から滞納者は役員になれないとしてくれてたらよかったのに」と言われたのですが。
原始規約(竣工時にデベロッパーなり管理会社なりが作った、一番最初の規約)は、多くの場合、標準管理規約に沿って作られている、というのが多いと思います。
標準管理規約には、「明らかにダメでしょ」ということが書かれているのみですが、役員の欠格要件をあえていじっていることは、たぶん、ないと思います。
標準管理規約第36条の2より抜粋
(役員の欠格条項)
次の各号のいずれかに該当する者は、役員となることができない。
一 成年被後見人若しくは被保佐人又は破産者で復権を得ないもの
二 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者
三 暴力団員等(暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者をいう。)
私見ですが、これは、「マンションが決めるべきこと」だからかな、と思っています。
滞納していると言っても種々事情があるわけで、少なくとも判断力があると認められるのであれば、当事者を信頼するか否かはマンションが独自に決めれば良いことでしょう、と。
特に確認したことはありませんが、そんなところかなと。
マンションの決まりは「できるだけ真っさらなまま」区分所有者にお渡しするのがデベロッパーの役割で、その引き渡されたマンションをどう育てていくかは、マンションが個別に決めれればよろしいことなのかなー、と、私は思います。
管理会社の回答、及び総括的なもの
正解のない話ではありますが、管理会社的には、「役員はご遠慮いただいたほうが無難でしょうね」というあたりしか言えません。
最終的には組合の判断なので、好きにしていただければよいのかな、ということでもありますが。
また、あまり重要ではない話なので、私個人としてはそれほど真面目に協議する必要があるとも思えないですが・・・。
ごくごく個人的な意見ですが。
滞納した時点でその対策を打つべきです。「滞納するとマズい」ということを知らしめるためにも、さっさと針のむしろに座って頂いたほうが良いですから。
役員にさせるなど論外でしょう、と思いますが、まあ、人それぞれ理由があるのでなんとも言えません。サラリーマンならそうでもないでしょうが、事業を営んでいる場合は特に「ここさえ乗り越えれば」というどうしようもなく本当に苦しい時もありますし、そうした事情があり、かつ、誠意のある方にはなんらかのカバーがあってもいいのかなあとは思ったりします。
ちなみに、この組合さんが最終的に出した結論は、「結論を先延ばしにする」です。
モメているうちに滞納も解消され、そのまま協議は下火になりました。
何も決まりませんでしたが、おそらくこれからもこのままなのかな、と。
滞納の理由の究明はしたのでしょうか? 滞納していても区分所有者であることは間違えなく、役員資格はあると考えるべきでしょう。
私なら、悪意の滞納でない限り、役員就任は阻止しません。 悪意の滞納なら、厳正な措置を即座に取ります。
こんにちは(╹◡╹)
ですね、標準管理規約通りだと役員資格はあります。
問題は、何をもって良い・悪いを判断するのか、ですね。
人間の感情をそこに含めると運営上は好ましくないのかなと、個人的には思います。
「あの人はいい人」「誠意がある」といった判断をする場合、どうしても担当役員によって基準が変わりますし、その結果、「だめ」と判断された方は、マンション内で「そういう人」という風に見られるリスクがあります。
人間のウワサって怖いですからね、これってすごく辛いことです。
なので、機械的に処理できるフローのほうが健全で、理事会も楽かな、と。
最終的には組合判断ですね。
人間味のある判断を好まれる組合もあるでしょう。