分譲マンションの役員就任について、標準管理規約に沿って運用すると「本人以外の就任は不可、かつ、代理も不可」というルールになります。
ここで問題となるのは、「本人以外」には、「本人の配偶者(妻や夫)も含まれる」ということです。
とはいいながらも、こういった厳密な運用をしているところはむしろ少なく、「今日は夫が仕事で遅れるので、妻である私が参加しますね」というのはよくあることです。そしてそれは、ルールとしてはダメですが、慣例として認められていというケースは多々あります。
が、ルール違反はルール違反、そのままでは非常に困った話になる可能性もあります。(例えば、役員の定数不足によって決議が全部なかったことになってしまう、ということにもなりかねません)
一層厳しくルール通り運用するのも一つですが、「だったら代理を正式に認めるルールに変更すればいいんじゃないの?」という向きのお話もあろうかと思いますし、そちらのほうがより実態に合っていると思います。
ということで、代理出席をルールとして認めるための規約変更の案を紹介します。
以下の3点です。
- 理事会に代理人が出席できるようにする
- 役員(理事&監事)に、区分所有者以外のものが就任できるようにする
- 総会に代理人が出席する際の齟齬をなくす(おまけ)
管理規約を変更する際は、ご自身でもよく確認するとともに、専門家(管理会社やマンション管理士、弁護士等)の意見もお聞きになられることをおすすめいたします。特に現行の管理規約との整合性を確認する作業は非常に大事であり、ミスがあると総会が成立しなくなるなどの大きなトラブルに繋がる可能性があります。よくよくご注意をお願いします。
また、本件に限らず、規約の変更はそれぞれのマンションの特性に合わせ、慎重に検討をする必要があります。すべてのマンションが同じルールで運用をしているわけではありませんし、また、しなければならないわけでもありません。
ここで紹介する規約変更は一つの案ですが、特段に、なにかの法的なチェックを行っていたり、深い思慮の上に精査しご紹介するものではありません。本規約案をご利用になられた上で発生したすべての損害については免責とし当サイト管理者は一切の責任を負いません。くれぐれも自己責任でお願いします。
目次
理事会に、理事の代理人が出席できるようにする
理事会には、理事本人しか出席できません。配偶者(本人の妻や夫)もダメです。
そのルールを変更し、範囲を限定した上で代理人を認めましょう、という変更案です。
標準管理規約の規約
第53条
理事会の会議は、理事の半数以上が出席しなければ開くことができず、その議事は出席理事の過半数で決する。
↓変更後↓
変更後の規約案
第53条
理事会の会議は、理事の半数以上が出席しなければ開くことができず、その議事は出席理事の過半数で決する。なお、理事に事故があり、理事会に出席できない場合は、その配偶者又は一親等の親族(理事が、組合員である法人の職務命令により理事となった者である場合は、法人が推挙する者)に限り、代理出席を認める。
※黄色い網掛けと下線部のある部分が変更点です。
イメージ図
↓変更後↓
解説
標準管理規約のコメントのとおりの変更ですから、この変更案について特に疑義はないと思います。
なお、実際には、特別に事故がなくとも配偶者等が代理出席しているケースのほうが大多数でしょう。ですから、「理事に事故があり理事会に出席できない場合は」という点については文言をいじってあげたほうがより実態に合っているとは思います。具体的には、「事故があり」を省く、または「事故などの事由により」とぼかすなどの手があると思います。
ただし、「事故があり」を省くと理由がなくとも代理人で基本OKとなってしまうので、それを良しとするか否かについては十分に検討する必要があります。想定されるトラブルとして、その日の気分で毎回、夫と妻が入れ替わって出席する運用も認められるわけです。そうなると「その話聞いた、聞いていない」で議題が中断されるなどのリスクもあります。
なお、後述の「区分所有者以外が役員に就任できる」旨の規約変更を行うことで、妻が役員に就任することも可能となります。であれば、通常は妻が理事会に出席し、妻に事故があるときのみ代理で夫が出席する、という運用が可能となりますから、「事故があり」は残しておいても運用上の問題はなくなると思います。
原則として、代理出席は「事情がありやむを得ないときに限るのが適当」であることについては留意したほうが良いと考えられます。(標準管理規約コメントのとおりですが、運用上もそのほうが適当だろうと私も思います)
実際にどのような運用とするかは現在の管理規約、組合の方向性との調整次第ですが、本案と後述の組合員以外の役員就任可能案を同時採用すると、実態との整合性が取れてよろしいのではないかな、と私は思います。
監事の代理出席について
本変更においては、監事職についての代理出席は認めていません。
監事は特に重要な役職であり、本人の資質、適正に留意して選任されるべき職務であるから代理は不可、と考えられます。(ちなみに、監事には理事会の議決権は与えられていません)
監事の代理は何人にも務まりません、規約を変更して配偶者等が監事の代理を行うことは適当ではないと私は考えます。
とはいえ、現実的には、「理事&監事」を同じように役員と認識している方のほうが多く、住民の感覚としては「監事は代理できないから本人が無理なら出席しなくても良い」という捉え方になるとそれはそれでどうだかという向きの意見もあろうかと思います。
これについては、監事の配偶者が理事会に出席し意見を述べることについてまで標準管理規約では禁止していませんから、まあ、本人が無理なら配偶者等に出席いただき、監事(役員)としての職権はないまでも前向きに意見交換に協力いただく、という方向での調整は可能かと思います。マンション毎に打ち合わせてください。
参考
標準管理規約コメントより抜粋
第53条関係コメント
- 理事は、総会で選任され、組合員のため、誠実にその職務を遂行するものとされている。このため、理事会には本人が出席して、議論に参加し、議決権を行使することが求められる。
- したがって、理事の代理出席(議決権の代理行使を含む。以下同じ。)を、規約において認める旨の明文の規定がない場合に認めることは適当でない。
- 「理事に事故があり、理事会に出席できない場合は、その配偶者又は一親等の親族(理事が、組合員である法人の職務命令により理事となった者である場合は、法人が推挙する者)に限り、代理出席を認める」旨を定める規約の規定は有効であると解されるが、あくまで、やむを得ない場合の代理出席を認めるものであることに留意が必要である。この場合においても、あらかじめ、総会において、それぞれの理事ごとに、理事の職務を代理するにふさわしい資質・能力を有するか否かを審議の上、その職務を代理する者を定めておくことが望ましい。なお、外部専門家など当人の個人的資質や能力等に着目して選任されている理事については、代理出席を認めることは適当でない。
- 理事がやむを得ず欠席する場合には、代理出席によるのではなく、事前に議決権行使書又は意見を記載した書面を出せるようにすることが考えられる。これを認める場合には、理事会に出席できない理事が、あらかじめ通知された事項について、書面をもって表決することを認める旨を、規約の明文の規定で定めることが必要である。
- 理事会に出席できない理事について、インターネット技術によるテレビ会議等での理事会参加や議決権行使を認める旨を、規約において定めることも考えられる。
- 第2項は、本来、①のとおり、理事会には理事本人が出席して相互に議論することが望ましいところ、例外的に、第54条第1項第五号に掲げる事項については、申請数が多いことが想定され、かつ、迅速な審査を要するものであることから、書面又は電磁的方法(電子メール等)による決議を可能とするものである。
※第2項=「次条第1項第五号に掲げる事項については、理事の過半数の承諾があるときは、書面又は電磁的方法による決議によることができる」 (※次条第1項第五号=第17条、第21条及び第22条に定める承認又は不承認。つまりリフォームやペットのこと)
- 第3項については、第37条の2関係を参照のこと。
※第3項=「前2項の決議について特別の利害関係を有する理事は、議決に加わるこ
とができない」
役員(理事&監事)に、区分所有者以外のものが就任できるようにする規約案
前段では、理事会に代理人が出席できるようにしました。
更に範囲を広げ、「役員に区分所有者以外のものが就任できるようにする」のが本案です。
標準管理規約 第35条
(中略)
2 理事及び監事は、組合員のうちから、総会で選任する。
↓変更後↓
第35条
(中略)
2 理事及び監事は、組合員のうちから、総会で選任する。なお、組合員の配偶者又は一親等の親族のうち、○○マンションに現に居住する成年に達したものに限り、理事及び監事に総会で選任できるものとする。
イメージ図
↓変更後↓
解説
「役員の代理を認めた」のが前述の案。
「役員に区分所有者以外がなれる」としたのが本章です。
現に居住する、成年に達した「配偶者又は一親等の親族」であれば、総会で役員になれますよ、と。そういう規約変更案になっています。
監事について
前段では、「監事の代理は不可」という趣旨のお話をしましたが、今回は区分所有者以外が「監事に就任する」ことを認めています。
この違い、よーく理解しておかないと見誤ります。大事。
参考
標準管理規約コメントより抜粋
第35条関係
- 管理組合は、建物、敷地等の管理を行うために区分所有者全員で構成さ れる団体であることを踏まえ、役員の資格要件を、当該マンションへの居 住の有無に関わりなく区分所有者であるという点に着目して、「組合員」 としているが、全般関係③で示したとおり、必要に応じて、マンション管 理に係る専門知識を有する外部の専門家の選任も可能とするように当該要 件を外すことも考えられる。この場合においては、「外部専門家を役員と して選任できることとする場合」の第4項のように、選任方法について細 則で定める旨の規定を置くことが考えられる。この場合の専門家としては、 マンション管理士のほか弁護士、建築士などで、一定の専門的知見を有する者が想定され、当該マンションの管理上の課題等に応じて適切な専門家 を選任することが重要である。 なお、それぞれのマンションの実態に応じて、「○○マンションに現に 居住する組合員」((注)平成23年改正前の標準管理規約における役員 の資格要件)とするなど、居住要件を加えることも考えられる。
- 理事の員数については次のとおりとする。
1 おおむね10~15戸につき1名選出するものとする。
2 員数の範囲は、最低3名程度、最高20名程度とし、○~○名という 枠により定めることもできる。- 200戸を超え、役員数が20名を超えるような大規模マンションでは、 理事会のみで、実質的検討を行うのが難しくなるので、理事会の中に部会 を設け、各部会に理事会の業務を分担して、実質的な検討を行うような、 複層的な組織構成、役員の体制を検討する必要がある。 この場合、理事会の運営方針を決めるため、理事長、副理事長(各部の 部長と兼任するような組織構成が望ましい。)による幹部会を設けること も有効である。なお、理事会運営細則を別途定め、部会を設ける場合は、 理事会の決議事項につき決定するのは、あくまで、理事全員による理事会 であることを明確にする必要がある。
- 本標準管理規約における管理組合は、権利能力なき社団であることを想定しているが(コメント第6条関係参照)、役員として意思決定を行える のは自然人であり、法人そのものは役員になることができないと解すべきである。したがって、法人が区分所有する専有部分があるマンションにお いて、法人関係者が役員になる場合には、管理組合役員の任務に当たるこ とを当該法人の職務命令として受けた者等を選任することが一般的に想定 される。外部専門家として役員を選任する場合であって、法人、団体等か ら派遣を受けるときも、同様に、当該法人、団体等から指定された者(自然人)を選任することが一般的に想定される。なお、法人の役職員が役員 になった場合においては、特に利益相反取引について注意が必要である (第37条の2関係参照)。
- 第4項の選任方法に関する細則の内容としては、選任の対象となる外部 の専門家の要件や選任の具体的な手続等を想定している。なお、⑥及び第36条の2関係②について併せて参照のこと。
※第4項=「組合員以外の者から理事又は監事を選任する場合の選任方法については細則で定める。」
- 外部の専門家を役員として選任する場合には、その者が期待された能力等を発揮して管理の適正化、財産的価値の最大化を実現しているか監視・ 監督する仕組みが必要である。このための一方策として、法人・団体から 外部の専門家の派遣を受ける場合には、派遣元の法人・団体等による報告 徴収や業務監査又は外部監査が行われることを選任の要件として、第4項 の細則において定めることが考えられる。
総会に代理人が出席する際の齟齬をなくす
総会の出欠を取る際、議場の出席者が「●●号室の●●です」と申告し、出欠を管理する担当者(多くは管理会社)がチェックを入れる、というのが通常の総会運営です。
この場合、「本来の区分所有者は夫なのだけれど、出席者は妻」の場合、「妻が本人として出席を表明する」するケースが多々ありますが、これは(微妙なところもあるのですが)アウトです。代理人であることを示す書面が必要です。
標準管理規約第46条より抜粋
2 住戸1戸が数人の共有に属する場合、その議決権行使については、これら共有者をあわせて一の組合員とみなす。
3 前項により一の組合員とみなされる者は、議決権を行使する者1名を選任し、その者の氏名をあらかじめ総会開会までに理事長に届け出なければならない。
(中略)
6 組合員又は代理人は、代理権を証する書面を理事長に提出しなければならない。
総会の議場で紙を書いてもらう(出欠のついでに、部屋番号、氏名、本人か否かなどを書いてもらう)などの運用をすれば事足りるとは思いますが、実務的にはあまりそういった運用はしているところは少ないと思います。
標準管理規約 第46条
(中略)
6 組合員又は代理人は、代理権を証する書面を理事長に提出しなければならない。
↓変更後↓
標準管理規約 第46条
(中略)
6 組合員又は代理人は、代理権を証する書面を理事長に提出しなければならない。ただし、○○マンションに現に居住する組合員の配偶者または一親等の親族のうち、成年に達したものが代理人として出席する場合はこの限りではない。
解説
この規約を見たとき、「こりゃ素晴らしい」と手をたたきましたので思わずご紹介しておきます。使いこなせそうな方だけ参考にしてください。細かくは解説しません。
本章は横着さんのための変更案です。
代理人の対応範囲を増やしたいが可能か?
標準管理規約の第46条にて、下記のように定められています。
標準管理規約 第46条第5項より抜粋
組合員が代理人により議決権を行使しようとする場合において、その代理人は、以下の各号に掲げる者でなければならない。
一 その組合員の配偶者(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)又は一親等の親族
ここに一親等と記載されていることを理由に、今回紹介した規約変更の案もそれにあわせて代理人の範囲を一親等までとしています。
これは調整の上、範囲を広げても問題ありません。特に、兄弟や孫は二親等にあたりますから、一親等ルールだと就任不可となります。一般的にも孫が代理となることは珍しいことではないので広げてもいいのかなとは思いますが、広げれば広げるだけリスクの幅も広がるので、その点には留意して調整をしてください。特に管理費等の支払い義務と役員義務とが離れていくと、相続の問題も絡み金銭のトラブルリスクは増えます。
なお、規約変更の注意点としては、代理人の範囲は全部統一しておくのが良いと思います。あれは一親等、これは二親等、となると管理側が大変なので。(みんなが理解できていれば特別にトラブルもないかもしれませんが、現実にはそうではないでしょう)
おわり
3つの規約変更の案をご紹介しました。
- 理事会に代理人が出席できるようにする
- 役員(理事&監事)に、区分所有者以外のものが就任できるようにする
- 総会に代理人が出席する際の齟齬をなくす(おまけ)
標準管理規約どおりだと、役員以外の理事会出席は認められませんし、それに伴って理事会決議が無効、などのゴタゴタに巻き込まれる可能性もあります。もし対応できていないようでしたら、どこかの機会で、そしてできるだけ早めに、ケアしておいたほうがよろしいだろうと思います。