組合運営

分譲マンションにおける共用部分「管理行為」のまとめ【変更・狭義の管理・保存行為】

分譲マンションでの「管理」といえば、何を想像しますか?

マンション管理会社が行なう「管理業務」のことであったり、マンション管理組合の行う「マンション運営」であったり、ですよね?

それらをまとめて「マンション管理」と呼ぶのが、一般的な考え方かと思います。

私も、特に前置きがなければそのように想像しますし、それはそれで正解です。

しかし、こと法律において「管理行為」という言葉が使われた場合は、「マンション管理」という意味とは少し定義が違います。

法律の話で結構ややこしいですので、ちょっとまとめておきます。

共用部分の、管理行為の種類

  (広義の)管理行為 処分行為
管理の
区分
変更行為 (狭義の)管理行為 保存行為 処分行為
重大変更 軽微変更 利用行為 改良行為
決議
方法
特別決議 普通決議 普通決議 普通決議 決議不要 原則全員
内容 形状または効用を
著しく「変える」
形状または効用を
著しく「変えない」
変更に
あたらない
範囲で利用
変更に
あたらない
範囲で価値を高める
状態を
維持する
性質を
変更する
具体例 増築を伴う
エレベーターの設置
階段にスロープを併設 駐車場の
外部貸し
防犯灯の
設置
破損箇所
の修理
敷地の
売却

はじめちゃん
はじめちゃん
処分行為は管理行為ではないですが、せっかくなので入れときました!

※スマホ用に、画像もおいときます。

(広義の)管理行為は、3つに区分できます。

  • 変更行為
  • (狭義の)管理行為
  • 保存行為

変更行為とは?

「重大変更」と、「重大ではない(軽微)変更」に区分されます。

変更行為の一つ、「重大変更」

形状または効用を「著しく変える」こと、を指します。

マンションにとって大きな変更ですから、慎重に決めましょうね、という趣旨で、決議のハードルが高くなっています。

具体的には、

  • 「集会室を廃止して、倉庫にする」(用途の変更)
  • 「増築して集会室を作る」(形状の変更)

などが考えられます。

決議は、特別決議が必要で、区分所有者及び議決権の4分の3以上の同意が必要です。

区分所有法 第17条より抜粋

共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。

補足 言葉の意味

共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)

とあります。

「著しい変更を伴わないもの」を、除く

です。

言葉を変えると、

その形状または効用の著しい変更を伴う共用部分の変更は、区分所有者の~~~

と理解してOKです。

変更行為の一つ、「軽微変更」

その形状または効用の「著しい変更を伴わない」共用部分の変更のことを指します。

普通決議(総会参加者の過半数でOK)です。比較的、低いハードルですね。

例えば、全100戸のマンションで、総会出席者80人の場合を計算しますと、

普通決議=80人の過半数の賛成で可決
(つまり、41人の賛成があればOK)

特別決議=100人の4分の3以上の賛成で可決
(つまり、75人の賛成があればOK)

※議決権と区分所有者の頭数の違いは、この計算では考慮していません。

例えば、一人の区分所有者が2部屋を所有している場合は、区分所有者が99人となります。再計算してください。

何をもって「重大な変更なのか」について、明確な線引きはありません。

しかし、その参考となる具体例は標準管理規約の「第47条関係コメント」で解説されています。マンション管理に携わるのであれば、熟読しておくことをオススメいたします。

はじめちゃん
はじめちゃん
管理業務主任者試験では頻出問題ですね~

ちなみに、以前は「大規模修繕工事は特別決議」とされていましたが、現在では普通決議で足りるとされています。(平成15年に区分所有法の改正があり、費用に関する要件が削除されたため、普通決議でよくなりました)

現在では、大規模修繕工事は普通決議で実施可能です。(ただし、内容に特別な変更・影響が含まれる場合は、その点については特別決議が必要です)

(狭義の)管理行為とは?

改良行為、利用行為をこう呼びます。

一般的な意味での「マンション管理を行う」などの「管理」とは違います

 

特に注意しないといけないのは、「改良」も管理行為に含まれること。

防犯灯の設置やカーブミラーの設置などが改良行為に該当しますから、総会での決議が必要となります。

実務上は、案外、理事会や理事長の判断で実施していることも少なくないのではないかな、とは思うのですが、ルール違反の可能性があります。

ちなみに、区分所有法では、「規約において別段の定め」が可能です。

区分所有法 第18条より

1項
共用部分の管理に関する事項は、前条の場合を除いて、集会の決議で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。

2項
前項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。

改良行為のすべてを総会決議とするのは実務上かなりツライ部分が多いので、まー、なんかの機会に管理規約を見直すのも一つですね。

はるぶー先生は、ご自身のマンションを以下のようにご紹介されています。

なかなかこうもきちんと設定しているマンションって少ないんじゃあないかなー、と思ったり思わなかったり。

最適解かなー、と思います。

現実に、世のマンションが改良行為をどのように処理しているか私は知りません。少なくとも、我が社ではバッチリ対応できていません。

保存行為とは?

保存行為とは、代表的なものは修理や点検、清掃です。

原則、管理者である理事長が行います。

区分所有法 第18条より抜粋

1項
共用部分の管理に関する事項は、前条の場合を除いて、集会の決議で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。

2項
前項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。

区分所有法 第26条より抜粋

管理者は、共用部分並びに第二十一条に規定する場合における当該建物の敷地及び附属施設(次項及び第四十七条第六項において「共用部分等」という。)を保存し、集会の決議を実行し、並びに規約で定めた行為をする権利を有し、義務を負う

このように、区分所有法では、保存行為は単独で実施が可能です。

しかし、標準管理規約では、それを否定しています。

趣旨としては、「みんなが好き勝手に修理することを許可したら収集つかんでしょ」ということかな、と思っています。

標準管理規約 第21条 より抜粋

(敷地及び共用部分等の管理)

1 敷地及び共用部分等の管理については、管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする。ただし、バルコニー等の保存行為(区分所有法第18条第1項ただし書の「保存行為」をいう。以下同じ。)のうち、通常の使用に伴うものについては、専用使用権を有する者がその責任と負担においてこれを行わなければならない。

2 専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる。

区分所有者は、第1項ただし書の場合又はあらかじめ理事長に申請して書面による承認を受けた場合を除き、敷地及び共用部分等の保存行為を行うことができない。ただし、専有部分の使用に支障が生じている場合に、当該専有部分を所有する区分所有者が行う保存行為の実施が、緊急を要するものであるときは、この限りでない。

4 前項の申請及び承認の手続については、第17条第2項、第3項、第5項及び第6項の規定を準用する。ただし、同条第5項中「修繕等」とあるのは「保存行為」と、同条第6項中「第1項の承認を受けた修繕等の工事後に、当該工事」とあるのは「第21条第3項の承認を受けた保存行為後に、当該保存行為」と読み替えるものとする。

5 第3項の規定に違反して保存行為を行った場合には、当該保存行為に要した費用は、当該保存行為を行った区分所有者が負担する。

6 理事長は、災害等の緊急時においては、総会又は理事会の決議によらずに、敷地及び共用部分等の必要な保存行為を行うことができる。

この場合、区分所有法よりも規約の設定が優先されます。

標準管理規約をそのまま採用ているマンションが多いでしょうから、世の中のマンションでは、保存行為は管理者(理事長)が行うことになります。

金額面の制限

保存行為に金額的な制限はないのですけれど、実務的には「高額」かつ「急がない」工事の場合は、保存行為であったとしても、総会の承認を得てから実施するケースもあります。

予算状況との兼ね合いもあるので、どんな内容なら総会で話し合いあうのか? については、一概には回答しづらいです。

管理会社としては、組合(というか理事会)が、どのような運営スタイルか、によって提案の方法を変えます。(よそはしりませんが、私は変えています)

「自分で判断のできない理事会」の場合、理事会決済での修繕の実施は要注意です。
受注は簡単かもしれませんが、後々、理事会以外の組合員から「本当に工事が必要だったのか」の返答を理事会ができないからです。
その場合、「管理会社に言われたから」という回答を理事会が行い、結果として管理会社が責められる、というケースが散見されます。
様子を見ながらソフトにすすめるとともに、「承認→発注」(管理会社側から見ると受注)のプロセスは、議事録等の書面でガッチリ残しておきましょう。

しかし、「判断ができて、総会等の場では自らの言葉で説明ができる」理事会であれば配慮は不要です。必要に応じて、打ち合わせの上、修繕を実施することに特に気を使う必要はないと思います。

世間でどう言われているかは知りません(管理会社の言いなりの、判断力のない管理組合のほうがやりやすいと言われることが多いです)が、私は判断力のある組合のほうがよほどやりやすいです。

判断力のない組合は、とにかく要注意です。(微妙な案件は特に)

「特別の影響を与える」場合は、該当住戸の同意が必要なので注意

共用部分の変更を行なう際、特別の影響を受ける区分所有者がいる場合は、その区分所有者の同意が必要です。

区分所有法 第17条より抜粋

1項
共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。

2項
前項の場合において、共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならない。

何らかの理由で住環境が悪くなる、だとか、そういった場合を想定しています。

例えば、敷地に駐輪場を新設したことによって、1階の住戸の採光が悪くなる、などですね。

この場合、総会で賛成した方については承諾は必要ありません。(すでに承認しているからです)

影響がある住戸の方で、よくみないでうっかり議案に賛成してしまった場合は、改めての承諾なくそのまま進められる可能性があります。議案はよく読まないと損ですヨ。

 

なお、「具体的にどんなケースが、特別の影響を及ぼすと言えるのか」については、判例でもいろいろなパターンがあります。

例えば、駐車場料金の値上げについては、(妥当な値上げ額であれば)「特別の承諾は必要ない」とされた判例もあります。

これらの判断についてはケースバイケースですから、専門機関とよくご相談されると良いと思います。

特別の影響を及ぼす場合に同意が必要なのは、規約の変更も同じです。
(区分所有法第31条に、本件と同様の項目があります)

法令の制限

特に規制を受けるのは次のとおりです。

  • 民法
  • 区分所有法
  • 管理規約(マンションごとに内容は違います)

このページで書いたことは、上記3つの情報が折り重なり合っています。

民法・区分所有法は、日本にあればどこのマンションも同じものが適用されますが、管理規約はマンション固有のものです。

 

このページでは、私が知りうる限り条文もあわせてご紹介しました。
が、漏れもあるかもしれませんので、ルールの変更を検討される際は、判例も含めてよくご確認くださいませ。

また、実際のマンション運営を行なう際は、管理会社やマンション管理士、弁護士等の、専門機関の助言を受けることをオススメいたします。

 

区分所有法においては「絶対に守らないとダメ!」としている部分(いわゆる強行規定)は意外と少なくて、多くの部分が「規約で変更OK」となっています。

法は、マンション運営を自治に委ねている、と考えて良いと思います。

それゆえ、マンション固有の事情によって正解は変わります。ご注意くださいませ。

参考:本件に関係する資料

民法の規定

第三節 共有

(共有物の使用)
第二百四十九条
各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。

(共有持分の割合の推定)
第二百五十条 各共有者の持分は、相等しいものと推定する。
(共有物の変更)
第二百五十一条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。

(共有物の管理)
第二百五十二条 共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。

法務省の資料

http://www.moj.go.jp/content/001237128.pdf

※PDFが開きます。

上記PDFの話をうっすら引き伸ばしたのが、今回のページの内容です。

余談:マンション管理会社の果たす役割

法と規約に関わる内容は(忘れられがちですが)管理会社の専門分野です。

このあたりのお話については、大いに管理会社を頼っていただければよろしいかと。

(だからといって、正しい管理が行われているのか、どのような解決ができるのか、その解決に金銭が必要か否か、というのはまたそれぞれ個別の話ですが・・・)

 

管理会社の社員の能力は「総会や理事会をうまいことまとめる」機能の高低で判断されることが多いです。

正直な話、実務で法に関する理解を問われることはどちらかと言うと少ない(というかほぼない)のが現状ではあります。

とはいえ、だからといって「今までこうしてきたのでよく知らない」では、「じゃあお前はなんなんだ?」という話ですよね。
フロントの皆さん、一緒にお勉強しませう。

まー、この辺は、現場の人間の「あれ?」を「会社としてどう処理するか」というお話ですね。ここでどうのこうの言うのは差し控えておきますが、管理会社の社会的な責任は大きいのかな、と思ったりもしています。

ABOUT ME
はじめちゃん!
はじめちゃん!
分譲マンションを管理する会社に勤めています。 資格:管理業務主任者/マンション管理士/宅地建物取引主任士/マンション維持修繕技術者/二級電気工事士/2級建設業経理士/二級建築士/1級船舶免許

POSTED COMMENT

  1. アバター 器用人 より:

     実際の修理修繕等がその分類により行われているかは、素人の管理組合では、分類不可能です。 管理会社にも正確に分類できるとは思えません。 そこに不正の温床があり、費用も管理組合では想像もつきません。 大規模修繕のリベート問題もありますが、その少額バージョンは、ここにもあります。

  2. >器用人さん
    様々な解釈があります。パーフェクトはないかもしれません。
    が、それを諦めてしまっては、管理組合(と管理会社)は成り立ちませんよ。
    少なくとも、法令はそれを求めていますから(^^)

    不正については個別の事情でしょうから私にはわかりませんが、今回の話はそういった話ではないですよ~(*´ω`*)
    真面目な話をすると、私個人としては、不勉強な消費者を過度に保護する必要はないと思っています。資本主義社会ですから。

  3. アバター 器用人 より:

     今の状態では、知識、体験、情報等に、管理組合と管理会社の間には差がありすぎます。 区分所有法そのものも、解釈により齟齬が出ます。 素人の管理組合にそれを理解するのは不可能です。

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