事例紹介です。
マンション玄関のドアスコープにカメラを設置している住戸がある。
管理組合は、これにどう対応すればいいか。
という問題です。
状況
マンションの住戸玄関のドアスコープに、カメラを設置している住戸がある。
組合への申請はないが、過去から設置されていて、住人は周知の事実であった。
ドアスコープのカメラって、こんな商品です
イメージです、実際にこれがついていたわけでも、また、これなら付けられるという話ではありません。
あと、ここで紹介したものは電池式ですが、実際に設置されていたものは100V電源を供給して常時録画しているもの、なんだそうです。
マンション住民の意見
共用廊下を常時録画されているので、生活のリズムが把握される。
そのため、潜在的に気持ち悪さを感じる。
なお、プライバシーの侵害による具体的な被害は起こっていない。
管理規約は?
概ね標準管理規約に沿っている。
すなわち、
標準管理規約 第7条
対象物件のうち区分所有権の対象となる専有部分は、住戸番号を付した住戸とする。
2 前項の専有部分を他から区分する構造物の帰属については、次のとおりとする。
一 天井、床及び壁は、躯体部分を除く部分を専有部分とする。
二 玄関扉は、錠及び内部塗装部分を専有部分とする。
三 窓枠及び窓ガラスは、専有部分に含まれないものとする。3 第1項又は前項の専有部分の専用に供される設備のうち共用部分内にある部分以外のものは、専有部分とする。
設置方法と、規約違反はあるか
設置は室内から。そのため詳細な取り付け状況は不明。
しかし、設置は挟み込んでいると想定されるので、穴を開けたりなどはなく、共用部分への影響は、ないか、あってもごく軽微である(と思われた)。
また、当該マンションは、独自の工事による鍵の追加設置を認めており、適切な申請があれば組合は許可を出す状態。
事実、他の部屋複数住戸が、鍵を追加して設置している。
この追加した鍵に、管理組合は外観上の制限を加えていないので、鍵の見た目は住戸によってバラバラで統一感はない。
このような事情から、ドアスコープを取り外してカメラを設置していることは規約に沿ったものではないものの、それが直ちにマンションの美観や統一性を損なっているとは言えない状態。
追加した鍵?
玄関ドアに穴を開けて、新規に鍵を設置する方法で設置する補助錠です。
1ドア2ロックが、最近は当たり前ですよね。
最新のマンションだとほとんどは竣工からこの仕様だと思いますが、昔(といっても15年~20年?くらいまえ)のマンションはそうではありませんでした。
なので、心配な方は自分で設置しましょう、というふうにルールが決められています。
管理会社の意見
判断が難しい問題で、明確には返答できかねる。
そのうえで、以下の点について指摘をした。
カメラを設置していいのか問題
ドアスコープは、もともとその用途が「内部から外部を見る」という性質のものであるのだから、カメラを設置し録画しているからといって、それをもって直ちにおかしいと言えるのかどうかは、客観的な合理性にかける。
現時点でも、ドアスコープからずっと屋外を覗いていればほぼ同じ効果は得られるのだから、録画だけ取り出して問題だというと強い説得力はない。
カメラ映像の閲覧が嫌だ問題
当マンションには防犯カメラに関する取扱細則が設定されている。
そこには、録画映像を閲覧する際の申請や許可等に関する細かなルールが設定されていることを踏まえて考えると、マンション全体として、映像の録画、閲覧には重大な関心があると考えられる。
であれば、個人が共用部分を録画し、自由に閲覧できる状況はマンション全体の意思にはそぐわないと言える。
セキュリティ向上なのでいいことでしょ問題
防犯カメラがセキュリティに有意なことは、管理組合が共用部分にカメラを設置していることから考えて明白である。
そう考えると、個人の費用でマンションのセキリュティ向上に寄与しているという考え方もできる。
万が一、事故があった際は、映像の提出を求めるなどができるわけなので、事故解決に与える影響は軽視できない。
いまさらじゃないですか問題
聞くところによると、カメラ設置はかなり前から(数年というか数十年?)。
その間、特にトラブルも、住民からの指摘もなかったことを考えると、周辺住民は、ある程度は納得していたと考えられないこともない。
心の内では思うことがあったのかもしれないけれど、その程度だったと判断されてもおかしくない状況にはある。
管理会社のお答え
このような事情から、「客観的に正しい」といえる答えは、おそらくないのではないか。
管理会社側からは、明確な回答はし辛い。
本件の最大の問題は、「ひとりの居住者が管理組合の許可を得ず共用部分の映像を録画しており、その録画映像を自由に閲覧できる状況」であると思われ、それに対して心理的な気持ち悪さを感じている方がいる、という点が焦点。
マンションは生活の拠点であり、周辺の居住者の感覚から言えば、録画には心理的な抵抗があることはごく一般的な反応だろうから、その差し止めを求めることは妥当なのかなという気もするが。
一方で、カメラを設置している人にはそれなりの考えがあるわけなので、それを無視するわけにもいかないだろう。
私の答え
よって、まずは居住者の意見を聞いて、折り合いをつけないと話が進まないでしょうね。
とりあえず、理事会にでも来ていただいて、話を聞けばよろしいのではないでしょうか。
と、お答えしました。
少なくとも、即刻「問題だからはずせ」と言うには少々根拠が甘い気がしますし、揉めてこじれると遺恨が残りますからそれは避けたいところです。
意固地になって話を聞いてくれず、取り外しもされないばかりか、後々の組合運営にことごとく反対されるという結果もあり得ますからね。
最終的にどうなったか
どうにもなりませんでした。
理事会はモニャモニャ言って終わりでしたので、私もそのままほったらかしにしていました。
気がついたら引っ越しされていたので、じゃあいいかなと思ってブログに書いた次第です。
関連判例は?
東京地裁平成27年11月5日判決の、防犯カメラに関する判例が参考になるかなーくらいで、ピンとくるのは見つかりませんでした。
https://www.kkip-law.org/2018/04/96.html
↑このようなことです。
あまり参考にはならないかな。事情が違ってますからなんともですけど、雰囲気は感じられるのかなと。