平成30年10月現在、マンションの大規模修繕工事の工事費用は、とりあえず落ち着いているように思います。
足場不足・職人不足は、現場レベルでは平成30年8月頃の工事からよく聞くようになりましたが、しかしそれが価格に転嫁されている様子は(いまのところ)顕著には見受けられません。
今は、平成31年春工事の準備をしている段階ですが、うーん、特に変化ないのかな、という単価が届いています。
これからどうなるのでしょうか? いつ工事すればいいですか?
というご相談を組合さんから受けることがありますが、そんなもんわかりません。
さて、私が知ってる大規模修繕工事に関係する状況について、まとめておきます。
最終的には、情報を判断するのは皆さんです。そのへんは一つよろしくです。
過去の経緯
整理する意味でも、以前の出来事についてもご紹介します。
バブルの崩壊からのリーマン・ショック、、、と、あまり古い話になるとアレなんですが。
何十年、というスパンで、日本の建築の需要は年々下がっていました。
利益が出ない中で、血を吐き、身を削りながら生き残ってきたのが建築業界だ、と聞いています。
転機となったのは平成26年だったようです。
平成26年頃の出来事【増税と東日本大震災、原油高騰、円安】
消費税増税(5%→8%)と東日本大震災の復興需要、更に原油高騰が重なったのがこの頃です。
大規模修繕工事の工事費に限って言うと、このとき、単価は一気に1.3倍程度まで膨らみました。
それまでは、ファミリータイプ物件(70平米~100平米前後)のマンションで『戸あたり100万円くらい』と言われていたのが、130万円になりました。
50戸のマンションの場合、5000万円を見込んでいた大規模修繕工事の予算は、6500万をみなければならなくなったわけです。
1年でこれだけ上がったわけなので、資金が不足して借り入れせざるを得ない組合も増えました。
原油価格の高騰や円安によって、材料費が軒並み値上がりしたのもこの頃でしたね~。
このころは外国人労働者を現場で見かけましたが、今では見なくなりました。
いろんな要因が一気に重なったのがこの年だったと思います。
単管足場の単価を例に出すと、昔の資料を見ると平米で600円とか700円という単価もよく見かけます。
が、平成26年頃からは1000円オーバーが普通になりました。設計単価だと1500円くらいか、もう少し高いくらいかな?(タワー型は知りません、更に高いとは思います)
そういう状況ですので、「高い工事費は管理会社がウンタラカンタラ」と言われても担当者は呆けた顔するしかないわけです。前提から話が噛み合わないので。
消費税増税(5%→8%)の影響
消費税増税前の駆け込み需要はなかなかのインパクトがありました。
特例やなんやもありましたからね。
請負契約の特例
5%→8%のときは、H26年4月1日以降の工事が増税の対象でした。
しかし、大規模修繕工事などの請負契約については、その半年前までの契約分に限り、増税後の引渡でも5%の消費税でOKでした。
ですから、増税の半年前にあたる9月末までに契約し、実際の工事は翌3月着工~6月竣工、というスケジュールに工事が殺到しました。
ちなみに、支払は5%でも、業者は8%で下請けに発注します。業者側は8%を見込んで入札をしているはずですから、結局、本当に安かったのかはよくわからない単価でした。(ピークだったので、消費税分を差し引いてもむしろ高かった現場も多かったような・・・)
特に需要が集中した背景は、いくつかの推測ができます。
まず、業者、消費者側に、増税の経験がなかったこと。(3%→5%なんてはるか昔です)
「次から増税しますよ!」と言われなければ、ピンとこなかったんでしょうね。
提案する側、される側も、「いよいよ」となってから、慌てて工事をブチ込んだ結果かと思います。
あと、増税が工事受注のセールストークに使われてた感はありましたね。
「今ならオトク!」と。
東日本大震災の影響
日本は「ブルーカラー=負け組」という認識が教育段階で強く刷り込まれていますから、職人のなり手がどんどんいなくなっているようです。
そんな中、本格的に復興需要がスタートしたのが平成26年前後だったと記憶しています。
増税・材料費高騰に加え突発的かつ大量に発生した復興需要によって、職人さんの取り合いが始まりました。(あと、冷え込んでいた公共工事の発注が戻ってきたのもあったと思います。政権の話もあるでしょうが、事情はいろいろと複雑なので私にはなんとも)
この頃は、「関東では、日当5万円に、交通費+宿付きで職人を集めている」という話をよく聞きました。(ホントかウソかは知りません。ちなみに、標準だと日当は3万円くらいです)
足場の材料は足りないし、材料があっても職人はいないから組み上がらない、という話はそこら中で聞きましたし、「現場監督がいないので工事を受けられない。見積は参加辞退します」という業者がいたのもこの頃です。(今はそんな話、聞きません)
平成29年頃【社会保障未加入の下請け業者がいなくなった】
国土交通省は「職人さんも、ちゃんと社会保障に加入しようぜ」という方針を掲げています。
そんな事情で、平成29年より、社会保障未加入の業者は、下請けとして現場に入れなくなりました。(法改正)
いいことじゃないか、という話なんですが(まあ確かにいいことなんですが)しかし、これで仕事を辞める職人がたくさんいた(らしい)です。
現実には、社会保障に未加入の職人さんもいました。彼らにとっては、実質、手取りが減るわけですから、だったら「もうやーめた」と、仕事を辞めちゃう方も多かったんだとか。
もともと、そういうのちゃんとしてた企業は、あんまり響かなかったかもしれませんね。
外野から見ていた限りでは、価格に影響がでるほどのインパクトはありませんでしたが、業者にとってはワタワタする年だったみたいです。
平成30年の今、どんなかんじ?
見積もりを見る限りでは、ここ数年、特に変化ありません。
変化ないと言っても、業者の見積もりが常に同じというわけではなく、取りたい現場とそうではない現場で、見積もり単価は使い分けている感じです。
つまり、「仕事を取りたいときは安く」見積もりを出しますし、「仕事がそれほど欲しくないときは普通の値段で」見積もりを出すのが業者です。
後者の場合は、「とれたらラッキー」くらいの認識ですね。常に最安値で出してるわけないです。
定価のない商品ですし、そういうもんですよ。お商売なんで。
消費税増税に対する認識
平成31年10月1日に増税となりますが、今のところ、駆け込み需要については考慮する必要はないと、私は考えています。
増税スケジュールが何度か延期されましたからね。
やるつもりの工事は、以前にやっちゃってることが理由の一つ。
もう一つは、今から計画すると「オリンピック需要と重なるため延期したい」思惑で、身動きが取れない、って感じです。
実際に、私の担当マンションでも、あえてずらした現場がいくつかあります。
材料、職人さんの不足は?
あるような、ないような・・・。
現場レベルでは、工事が若干遅れたりする程度には、あたふたしています。
特に、地震・台風の影響がありましたから、そちらに緊急で足場も職人も取られているイメージです。(私は関西圏です。別の地域は、また違った印象があるとは思います)
ただ、それらは価格には反映されていません。今のところ、ゆらぎ程度で収まっています。
災害の突発的な需要はいずれ解消されるでしょうから、これは短期的な影響だろうと判断しています。
東京オリンピックの影響は?
あるような、ないような・・・。
今のところ、東京でどうのこうのという話は、聞く限りでは、価格に影響を与えるほどではありません。
というか、東京に行く職人さんは、もうすでに行ってるんじゃないかなー? と、思います。
ピークは来年あたりでしょうか?
終わってない工事を終わらせるために、仕上げのときは一気にオカネで人を集めるのだろう、とは思いますが・・・どうでしょうね。短期的な影響じゃないかなーというはしています。
オリンピックとぶつけて大規模をやろう! という血気盛んなマンションは影響を受ける可能性は高いですが、少数派ですよね?
普通はスケジュールを調整して、前倒しで今着工してるか、遅らせるかの判断をしているでしょうから、オリンピック需要がマンションの大規模修繕工事に与える影響は一段落している、と私は判断しています。
今後、大規模修繕工事の費用は上がるか?下がるか?
個人的な考えでしかありませんが、とりあえずこのままじゃないかなー? と思っています。
基本的には、RC造の建物は時代とともに増えていますから、修繕の需要は下がりようがないことが一つ。
国としても、一気に需要が冷え込むことは避けたいわけで、だったらなんかやるでしょ、とも思っています。
オリンピックが終わったからと言って、工事需要が極端に下がるのかどうか。大阪の万博、IRもどうなるかわかんないですしね。
それに、大規模修繕工事の修繕業者に限っていえば、基本的にはマンションは増える+古くなるで、仕事の絶対量は上がり続けます。
仕事が減らないなら、昔のように血反吐を吐き散らしながら仕事する必要もないですし、あえて単価下げる必要あるのかなー? という気がしています。
とはいえ、逆に、単価があがる要素も特にないですから、日本の物価変動にスライドするような形でジワジワ上がっていく程度じゃないかな、と思っています。
管理組合が取るべき戦略
2005年前後に建てられたマンションは、オリンピック(2020年)のときで15年。ちょうど大規模修繕工事をやりたい時期です。
しかし、オリンピックとのバッティングは避けたいとの思いから、工事を早められる組合は工事を早めて、10%の増税前に工事を済ませているはずです。
2006年~2007年に建築されたマンションが結構微妙。
「増税前に工事するには早すぎるし、ちょうどいい時期に工事をしようとするとオリンピックと重なるし・・・」と、悩む時期。
仕方なく先延ばしにしている組合が多いはずですが、「オリンピックが終わった頃にやろう」となると、2021年か、余裕を見ると2022年でしょうか。
16年経過していますから、かなり切羽詰まっていて、今度は遅らせることができなくなります。
このような環境が全国的に発生してるでしょうから、本来は2年~3年に分かれてくるはずの需要が、2020年~2022年頃に、一気に集中する可能性があります。
その時期を避けることができるマンションは避けたほうが無難かな、とは思います。
2020年~2021年が、判断のポイント
2020年~2021年が、判断の一つのポイントになると思います。
管理組合の方は、管理会社(付き合いがあるなら設計事務所や施工会社)に工事単価の変動を聞きながら、判断を行うことになります。
が、基本的には「やらないでいい」というものではありませんからね。
結局、2022年~2023年に実施を計画する以外にないのではないかなあ、と、私は思っています。
何が最善か
2019年秋工事は、できれば外したいところです。
オリンピックの最終仕上げがそのへんと重なる可能性が高いからです。
さらに、その爪痕が残る可能性のある2020年春工事もできれば避けたい。
となれば、
- 急いで2019年春を目指す
- ゆっくり2020年秋を待つ
という方法しかありません。
2020年秋工事が、一つの判断基準になるんじゃないかなー、と私は思っています。
管理会社からのアドバイス
管理会社にとって、顧客(管理組合)に、大規模修繕工事の着工時期をアドバイスするのは、めちゃくちゃ難易度が高いです。
外すと大きな損失を出す可能性があるので、「安易に受け答えはしない」というのが、共通する対応かと思います。
社会的な環境を、客観的にお話する程度で、「判断は皆さんで」程度でしょう。
場合によっては、自社が設計や工事を請け負うこともあるわけですから、そうなると、どうしても営業的な視点(全力のポジショントーク)が入ってしまいますしね。
いずれにせよ、現時点で、オリンピックの影響が落ち着くのを待つ以外にできることはないかなー、という感じです。