マンションの修繕積立金を改定するときに利用する資料を紹介します。
この資料は、「補足説明ありき」の資料です。
なぜかというと「気持ち」の部分が大事な話し合いだからです。文章に起こして読んでもらうのではなく、人の言葉で目を見て話をすべき内容です。
そんな資料なものですから、必要な補足情報は大幅に不足しています。なので、それなりに実務感のある方でないと背後の事情まで含めた正確な理解は難しいと思います。
そういう意味でも「私のお仕事紹介☆」的な内容になっています。
不足する情報は読んだ方が自前で補完していただくか、Twitterで聞いていただければお答えできるとは思いますが、この資料のキモは「書いてないこと」にあるので、何が不足しているか予想できる方はむしろ補足説明いらないと思います。
ざっと説明して30分程度。長々と丁寧に説明して1時間。質疑応答をガンガン受け付けると2時間程度のボリュームです。
内容を膨らませればいくらでも膨らむのですが、まあ、あまり長くても聞いてるほうがつらいので、質疑なしで30分程度、質疑ありでも1時間以内に収めるのがちょうどいいのかなと私は思います。
ここでの記載事項は、修繕積立金改定に際してはほんの入口の情報、基礎のキの部分ではありますが、さしあたって、築20年以内の賃貸率がそれほほど高くない物件であれば、概ねこの程度の説明でそれなりに満足のゆく合意形成が図れるのではないかな、というのが実務感です。
「それなりに満足のゆく合意形成」とは、「積立金、値上げしないといけないよね!」というところまでで、実際にいくらまでとかそういうことではありません。必要な額は各マンションが決めてください。
目次
会計部門について伝える
事前の情報として、まずはマンション会計の全体像を説明しておきます。(ほかに会計部門があるなら追加してください。)
説明する目的は「一般と積立は目的が違うから、分けて考えましょう」を確認するためです。
一般会計と積立会計をごっちゃにして考えてしまうケースはよくあります。
特段に「それが悪い、おかしいことだ」と言いたいわけではないんです。そりゃそうでしょう、お金を払っている側からすればまとめて同じように支払っているわけで、組合の右のポッケに入ってるか左のポッケに入ってるか、その程度の違いでしかないはずです。
というわけで、個人の認識はそれでも一向に構わないんですが、管理組合の運営としては、そういう考え方だとチョット困ることがあります。
さて問題です。なぜ独立しているのか。なぜ分けて考えるのか。なぜ困るのか。
ここ、「なぜ」か、わかりますか?
会計部門が別だからとか規約に書いてあるからとか、そういうコムヅカシイ話ではありません。
理由はもっと単純です。
答えは「物事を単純化して考えるため」です。部門を分けるのは、「何を」話し合うかを整理するためのツールです。
真剣に管理費、修繕積立金の計画を考えたことある方なら分かっていただけると思いますが、会計部門をごっちゃにしていると「計画が立てられない」のですよ。(正確には、「情報量が多すぎて処理できなくなる」です)
30年間のお金を貯める検討をしてる中で、「毎月の」支出を減らすとか考えだしたら要件が複雑に絡み合いすぎて、結局、論点がバラけてしまい、話がまとまらなくなるんですよ。
1年間の計画だと100万円の使途は大事ですが、30年の計画だと100万円は誤差になります。ここは切り分けて考えないと、大人数で議論をまとめるのは到底できません。
いまはどの視座で語っていることなのか、何を決めないといけないのか、その認識を均すために部門ごとで分けて話し合いをします。
難しいこと言う必要ありません。「そのほうがやりやすいから」で、十分だと思います。
「積立の不足分を一般会計でまかなう云々」というのはよくある話ですが、それは積立金とは別で検討するように誘導しておきましょう。なぜなら「そのほうがやりやすいから」です。
結果として「総支払額は同じだけれど、管理費の徴収額を下げて積立金を上げる」ことになるかもしれませんが、しかし、それは分けて考えたことで出来たのです。
検討の過程は相当クリアになっているはずで、分けなければその結論に至ることが出来なかった可能性すらあります。
繰り替し言いますが、これは会計の目的がどうとかの難しい話ではないのです。分けたほうが考えやすいから分けるべきなのです。
一般会計部門の特徴
分けて考えるなら、一般会計の説明もしないとね、です。
積立金の話をするのであれば、ここを詳しく話す必要はないかとは思います。
さっさと流しましょう。
ちなみに、管理費の使途は管理規約に載っているはずですから、説明する方は読んでおいてください。どういう話し合いをするのかを決めるときにその前提が崩れると論旨がブレるからです。
積立会計部門の特徴
一般会計との違いを説明するわけですが、違いは単に
- 一般会計=日常用(短期用)
- 積立会計=貯める用(長期用)
という程度の説明で良いと思います。
重要なことは、「2つを分けて考える」ということで、そこさえ理解してもらえるならあとは些事です。
説明はサッと流して、出た質問に答える程度でよいかと思います。
貯め方は2つ
ここで大事なことは、資料通りの貯め方の話を理解してもらうこと、ではありません。貯め方が2つあるなんて話は「どうでもいいこと」と言ってすらいいです。
大事なことは「自分のマンションだけがお金足りてないわけじゃない」を理解してもらうことです。
「世の中のマンションは」とか「国土交通省の」とかって書いてるでしょう? なぜわざわざそんなホントはどうでもいいことを書いたのか。
それは、一貫して「運営が悪かったわけじゃないんだよ、これが普通なんだよ、どこのマンションも足りてないんだよ」を理解してもらわないといけないからです。
そうでなければ、過去の役員や管理会社、デベロッパーを責めることに繋がりやすいです。過去の反省しても意味ないですし、お金増えません。
無論、デベや管理会社からの返答は「購入後のことは管理組合様の決定ですので」しかありません。
「世の中がそういうものなんだ」「自分のマンションがおかしいわけじゃないんだ」ということを徹底して理解してもらいましょう、ここが大事です。
なお、段階増額方式にしても、均等積立方式にしても根っこの考え方は同じで、違いは時間軸です。
10年程度の短期間の必要額を試算するのが段階増額方式、25年以上の長期間が均等積立方式。
どちらがいいかという話は長くなるので避けますが、最も重要なことを一つだけ。
マンションには、「30~50年に1度の周期で超高額な修繕をしないといけない」設備がいくつかあります。配管やサッシ関係です。
そのタイミングだけは、修繕費用が一気にたくさん必要になります。
その時期の準備をせずに、「今後10年はお金足りそうだから大丈夫だよね!」というのが段階増額方式。
備えるのが均等積立方式。
「長期に備える方式のほうが計画性がある」というのは素直にご理解いただけると思います。マンションを何年使うかはそれぞれですが、築50年はいずれ、そして、必ず訪れます。
お金が足りないとどうなりますか
資料は簡素ですが、ここ、全体を通しても一番大事なところです。チカラを入れてください。
ここの理解度、というか、「どのくらい心に響いたか」で、本件の方向性が決まると言って良いくらいです。
要するに、精一杯、目一杯、不安を煽りましょう。大事なことです。不安を煽るのです。
お金が足りなかったときに「あなた」ならどうするのか。「あなた」が役員になって、中心となって考えないといけない時期が来る可能性だってあるのです。だって輪番なんだから。人ごとではないんですよ。
子や孫にどのようなマンションを引き継いであげたいですか?「丁寧に使ってたんだね」って言ってもらいたいですよね?「こんな使い方してたの?」って言われるのは辛いですよね。
実例を交えて、時には聞いた話に尾ひれや胸びれも付け。いいですか? ここが一番大事なんです。
「もういいから」「わかったから」って苦笑いを貰うくらいが丁度いいです。理解力のある人だけに伝わっただけじゃダメなんです。興味のない人にも不安が伝わらないといけないんです。
お金の貯め方
ここは軽くで構いません。
質疑に答える程度で良いでしょう。
結論は「増額しないと足りない」の他にはないからです。
修繕積立金を上げない選択をするリスク
今積立金を上げないことにもリスクがある、ということを理解してもらいましょう。
話をしていて、一番「たしかに!!」というリアクションがあるのがここです。
特に「安いことを好む層が増えると値上げできないよね、例えば賃貸とか」という話をすると、聞いた人は「値上げできない」も「賃貸とか」もスッ飛んで「お金持ってない人が入居する」という印象を持ちます。(当然、それを狙って説明を誘導します。「んー、ちょっと私の立場では言いにくいんですけど・・・」とか頭に付けとくと普通の人は意味を察します)
私がそこになにか特別な感情をもっているわけではないですが、想像力というものは恐ろしいもので、膨らんでいくんですね。
ええ、膨らむだけ膨らませていただきましょう。不安は十分な行動の理由になります。
あと、重要なことなのですが、現在「安いことを好む層」も、少なからずマンションに住んでいるはずです。
しかし、彼らは「今が良ければそれでいい」とは言いません。「このマンションがどうなっても構わない」なんて言ってくれません。それさえ言ってくれればクレーマー認定で楽なのですが、やはり世間体もありますから、直球では攻めてはきてくれません。
「長期修繕計画の妥当性は?その保証はできますか?」だとか、「15年で確実に修繕が必要とは言えないんじゃない?だってどこも壊れてないし」とか「将来は確実ではないでしょう?」と、こうやってきます。
結果として反論できず「確かにそうですね、では計画を精査しましょう」でいろんな計画がストップする、というのがよくある姿です。
ここでバシッと言い切りましょう。
「遅れれば遅れるほどリスクが増すんですよ、マンションを大事にしなきゃ!」
あなた責任取れます?とか言うと戦争ですが、しかしこれは暗に匂わせる程度で良くて、ついでに言うと他の方にその意図が伝われば良いです。
本人は「積立金を上げたくない」という結論ありきでものを考えしゃべるわけで、何を言っても聞いてくれません。よって説得はできません。なので、その方に語りかけることにはあまり意味がありません。
大事なことは「意見を聞いた」という体裁を整え以降の同じ意見を封殺することと、そして、それを聞いている人たちがそのやり取りを聞いてなにを感じたか、です。
いいですか? 説得すべきは本人ではありません。声を大にする方はどうせ聞いてませんし、説得もできません。状況によっては、引っ込みもつかなくなっているかもしれません。「一回言った意見を変えられない、たとえ間違っているとわかっていても」という方もいるのです。
説得すべきは「それを聞いている、値上げ反対の方と同じ気持ちを持っているが声を出さない人」です。
やり取りを客観的に聞いてもらって「あ、これ言うとまずいことなのか、こうやって反論されるのか」ということを理解してもらい、そのまま黙っててもらいましょう。
きっちり理解してもらえれば「消極的な反対を表明する委任状」が出てくるに違いありません。もちろん賛成に投票されます。
修繕積立金はいくらが適正?
ここはマンション毎にカスタマイズする必要があるかとは思いますが、国土交通省のガイドラインを手に持って話をするとスムーズでしょう。
これは、URLに「mlit」とついていることが重要なのです。管理会社が作ったものではなく、管理組合が用意したものでもない、それが大事です。
https://www.mlit.go.jp/common/001080837.pdf
使い方で重要なことは「自分のマンションだけ値上げしないといけないわけではない」を強調するためにガイドラインを使うことです。本当に必要な額はいくらか、ということは別で計算しないといけませんから、その点についてガイドラインは役に立ちません。
これはガイドラインに限ったことではないのですが、第三者の情報は自分に有利な部分のみ抽出して紹介してください。
当該資料はもう10年近い前の資料なので数字としてはあまり参考になりませんが、「当時と比較して変動してるので、数値は1.3~1.5倍を目安に見るべきでしょう」くらいは言い切っていいと思います。
まとめの部分、総括
この説明会の終了時には、具体的にいつ何をする、は別としても、方針は周知して「それに向かって今後やりましょう」くらいの同意は取り付けたいものです。
逆に、この説明会でその同意が得られないような理由があるのであれば、増額改定は3~5年くらい遅れると思います。説明会で前向きに決まらないのなら次のアクションが踏みにくくなるからです。
余談ですが「アンケートして不参加の方の意見も聞きましょう」は最悪の悪手なのでやめてください。あらゆる意味でダメです。
どうしてもアンケートをしなければならないのであれば、「値上げ額は今より2万アップが良いですか?それとも1万ですか?」という、賛成意見のみを聞くアンケートがいいでしょう。
なお、アンケートでは反対を表明する欄は設けてはいけません。一応の措置として、最下部に意見欄を設け「ご意見のある方はこちらへ」としておけば、多くても1割も反対意見は出てこないでしょうから「賛成の意見が多かった1万の案で上程しました」くらいの議案には持っていけると思います。
おわり
こんな感じです。
重要なところは、
- 「今考えないといけない」を伝えること
- 「今考えなくても良い」を黙らせること
この2点かと思います。
なぜ「考えないといけない」としたかというと、「いま考えること」と「いま値上げしなければならない」かどうかは別問題だからです。
ただ、「潤沢な資金があるマンション=対策して早めに修繕積立金の増額検討をしてきたマンション」なわけで、それをしてこなかったマンションに潤沢な資金があるはずがありません。
ちゃんと考えれば「値上げは必須」になります。
あとは、どこまで住民を巻き込めるか、です。
どこまで、「自分が値上げを提案している」という気持ちにさせるかです。
というのも、どうしても理事会以外のメンバーは他人事になりやすいのが輪番役員マンションの特性です。
致し方ないところではありますが、しかしこれは案外あっさりと解決できます。
つまり,数年待てば自動的に解決します。
マンションの規模によりますが、3~5年もすれば、全住民のうちそれなりの数が役員を担当すると思います。(規模と役員の数にもよりますが、通常は10年~20年で一周するくらいの輪番を組んでいるところが多いと思います)
で、総会の場で、毎年彼らの口から言っていただければよいのです、「そろそろ積立金の値上げを考えないといけない時期ですね」と。
年々「自分が言ったこと」という認識を持つ「味方」が自動的に出来上がりますから、反対や、他人事と思ってる人たちが徐々に減っていく、という寸法です。
人間というものは勝手なもので、自分が言ったと思えばその事実に自分の意見をあわせたくなるものです。
あとは、ある程度その人達の数がまとまれば、残りの人達も雰囲気でそれに流される、という形が出来上がります。
注意すべきは強く反対する個体への対応なのですが、これについてはケースバイケースなので私から伝えられることはありません。
個人的には、粘り強く話し合って理解を得るよりも、その人の理解は諦めて全体としての同意を得られるように努力したほうが手っ取り早いとは思っていますが、まあ、人間関係の話でもあるので、その辺が苦手な私にはちょっとよくわかりません。
以上です。
何が正解かは私が決めることではなく各マンションが決めることですが、少なくともお金がないと選択肢が狭まるのは個人もマンションという集合体も同じです。
皆様のマンションが、豊かな生活の基盤となることをお祈りしております。